- ローカル5Gは通常の5Gと何が違うのか?
- Wi-Fiとは何が違うのか?
- なぜローカル4Gはあまり聞かなかったのに、ローカル5Gだけよく聞くのか?
Contents
普通の5G(パブリック5G)との違いは?
5Gが普及してきた昨今、ローカル5Gというものの存在を耳にすることも多くなってきたのではないだろうか?ローカル5Gとはその名の通り、決められたエリアのみでローカルに利用可能な5Gネットワークのことを表す。今回はそのローカル5Gについて記していきたいと思う。
通常の5G(無線通信)
まず、5Gに限らず通常の無線通信ネットワークは大きく3つのパートからなる。端末、基地局、コアネットワークである。
(※本来は「端末、RAN(Radio Access Network)、コアネットワーク」と分離されるが、この記事ではRANの機能を「基地局」と表現する。)
端末とは、例えばスマートフォンや携帯電話をさす。基地局に電波を飛ばしたり、電波を受け取ったりすることでユーザに情報を届ける部分だ。

基地局とは、端末から届いた無線の信号を、デジタルな情報に変えてコアネットワークに流す機能を持つ。あるいは逆に、ネットワークから届いたデジタルな情報を、無線信号に変えて端末に届ける役割だ。これは各通信事業者(NTT docomo、KDDI、softbank、楽天)がビルの屋上や電波塔などに設置しているため、見かけたことがある人もいるだろう。

コアネットワークとは、基地局から受け取った情報をインターネットに渡してサイトにアクセスできるようにしたり、あるいは別の基地局を介して別の端末にアクセスすることで通話を成立させたりする部分だ。別のネットワークとの窓口的機能と思って良い。
5Gは上記に記した部分によって構成されている。スマートフォンから出た電波は、基地局によってデジタル信号に変わり、コアネットワークを介してインターネットにつながる、といった流れだ。
現在の日本では、これらの機能はNTT docomo、KDDI、Softbank、楽天の4社が運用している。
ローカル5G
では、ローカル5Gとはどのようなものだろうか?平たく言えば、利用者に「オリジナルの基地局とコアネットワークを持たせる」というものである。
例えば工場で運用する例を考える。この場合、工場内の各端末に独自の認証機能(SIM)を与え、独自の基地局にアクセスできるようにする。そして別の工場内の端末にアクセスしたり、独自のコアネットワークに流したりする。
この例では、工場外の端末がローカル基地局にアクセスすることはできないし、ローカルコアネットワークと情報をやりとりすることはできない。完全に閉じたネットワークを構築することができるといえる。

実際にはコアネットワークは論理的には閉じてはいるものの、ローカル5G提供者のクラウド上の機能という例が多いようです。
パブリック5Gと比較した場合のメリット
- パブリック5Gより早く、5G本来の高性能を生かせる
パブリック5Gはまだ普及しないエリアもあるし、普及したとしても4G機能との抱き合わせ的機能である。5Gの高性能さを生かし切ることができるのはまだ先だ。
一方で、ローカル5Gは完全に独立した5G網を構築できるため、限定したエリア内では5G本来の高性能を遺憾なく発揮することができる。
- 障害に強い
まず、決まったユーザしか使わないうえに限られた区域でしか使われないため、障害が発生しにくい。更に障害が発生したとしても原因の特定が早い。ローカル5Gが企業向けのサービスとして提供されていれば、尚更である。
パブリック5Gと比較した場合のデメリット
- 免許が必要
大手キャリアが許可を得ているのと同様に、限られている区域とはいえ、5G通信を行うのであれば免許が必要である。使ってよい周波数というのはかなり厳密に定められているからだ。
従って、個別に導入するのが非常に難しく、ローカル5Gをサービスとして提供する企業に依頼するのが無難な選択肢となるだろう。
例えば NEC は、こうした免許の取得、5Gネットワークの構築、運用・保守を担うサービスを提供している。(参考ページ: 「NEC、ローカル5Gをサービス型で提供開始」)

そもそもローカル5Gとパブリック5Gは、使用用途が違うので比較は難しいところです
Wi-Fiとはどう違う?
その出自は大きく違うとはいえ、同じくローカルな無線ネットワークという意味ではWi-Fiとローカル5Gは通ずるところがある。
企業がローカルな無線ネットワークを構築する場合、これまでの妥当な案は「Wi-Fi」であった。そのうえ昨今では、これまでのWi-Fiと比べて更に高速なWi-Fi6(IEEE 802.11ax)も普及が見込まれている。その速度は5Gに匹敵し、わざわざローカル5Gを導入する必要はないのではないか、とも考えられるだろう。
そこで、ローカル5GとWi-Fiを比較した場合のメリットとデメリットを考えていく。
Wi-Fiと比較した場合のメリット
- 認証機能
ローカル5Gは先ほども記した通り、SIMが必要である。従って、ネットワーク管理者があらかじめ認証した端末以外はネットワークにアクセスすることができない。
一方でWi-Fiはパスワードがわかっている端末ならば、どこからでもアクセスが可能だ。もちろん、別途の認証を設けることは可能だが、端末自体に制限はなく、言ってしまえば「どの端末からでもアクセスされうる」のだ。
それがWi-Fiの利点でもあるのだが、セキュリティ的にはSIMによる認証を含むローカル5Gに明らかに軍配が上がる。

特に企業規模での利用なわけですから、認証については大きな強みです。
- 電波干渉
ローカル5Gは免許を与えられた周波数を利用するため、基本的に別の通信と干渉することはない。一方でWi-Fiは免許なしで誰もが利用できる周波数を用いているため、別の通信と干渉する可能性がある。
Wi-Fi5では用いていないが、Wi-Fiが一般的に用いる2.4GHzは免許のいらない周波数帯として数多の機器に利用されてきた。Bluetoothが利用しているのも2.4GHzだ。また、電子レンジなどのそばにWi-Fiアクセスポイントを置いておくと性能が大きく低下するのも有名だろう。
もちろん、電波の干渉を防ぐ対策は別法で行うことが可能とはいえ、ローカル5Gの方が理論上干渉は起こりにくいといえる。
Wi-Fiと比較した場合のデメリット
- 導入コストが高い
ローカル5Gを導入するのには、最低でも100万円以上の金額がかかる。その規模や、コアネットワークのサーバを自社で持つかどうか、などによっても変わるが、1000万円から1億円程度かかるサービスもあり、導入コストは完全に企業規模である。
一方でWi-Fiの導入コストはご存じの通り、安ければ数千円で可能だ。個人でも利用が可能だし、大規模な工場でも数十万円とかからないだろう。
なぜ5Gからローカル化?ローカル4Gはなかったの?
ローカル4G、ローカルLTEと呼ばれるものは存在したし、その仕組みはローカル5Gと大きくは変わらない。
ではなぜ、5Gばかり「ローカルネットワーク」が強調されているのだろうか。その理由は大きく分けて2つだと筆者は考えている。
パブリック5Gの普及に時間がかかる
ローカル5Gの普及は総務省も推進している。(参考:総務省におけるローカル5G等の推進)
5Gの低遅延性は大いに期待されているが、その普及にはあと何年もかかる。そこでその優秀な規格をいち早く社会に導入することができる技術が「ローカル5G」だ。ローカルならば、4Gの周波数を使った形だけの5Gではなく、即座に本来の5Gを導入することが可能だ。
個人規模でなく、まずは企業規模で5Gの仕組みを生かしてもらおう、という戦略である。実際、IoTなどの低遅延性が求められる機構は個人よりも企業からの需要の方が高いため、筋の良い流れと考えられる。
高周波数帯はそもそもローカルネットワーク向けである
4Gよりも、5Gの方が利用する周波数は高い。4Gが3.6GHz程度までだったのに対し、5GではSub6と呼ばれる3.6GHz-6.0GHzという周波数帯や、ミリ波と呼ばれる28GHz前後の周波数帯がある。今後更に高周波数帯が用いられていくことも期待されている。
ところが電波は高周波数になればなるほど減衰しやすくなるし、遮蔽にも弱くなってしまう。場所による電波強度に差が出やすくなってしまうのだ。5Gでは、電波に指向性をもたせるビームフォーミングなどの技術で補ってはいるものの、根本的に高周波数の方が網羅的利用が難しいといえる。人口カバー率を増加させるのが難しい理由はそこにある。
だからこそ「ローカルネットワーク向け」といえる。あらかじめ使う範囲内が決められていて、使用用途も決まっていれば、適切な基地局の位置・アンテナの数も規定できるため、課題が解決しやすい。

もちろん、高周波帯由来の問題を解決しているからこその5Gの台頭です。パブリックネットワークには向いていない、と言っているわけではありません。
まとめ
5Gのうま味は一般ユーザにはなかなか感じられないかもしれないが、ローカル5Gによって一足先に社会に貢献しうる。
ローカル5Gについてメリットをまとめると以下の通りだ。
- パブリック5Gよりも早く、安定した導入が可能
- Wi-Fiよりも電波干渉が少なく、認証が強固
- 高周波数帯通信はパブリックな導入が難しく、ローカル利用の方が導入しやすい